リアサスペンションのオイル漏れ
リアサスペンションの寿命と交換時期
リアサスペンションのオイル漏れは、「どこまでが大丈夫で、どうなったらまずいのか?」わかりづらいですよね。
たまに「オイル漏れしています」とお客さまに言われてみると、オイル漏れではなく、「オイル滲み(にじみ)」だったりします。
そこで具体的な事例を踏まえて、解説していきます。
リアサスのオイル漏れとオイルにじみのちがい
ハーレーダビッドソン
カワサキ ZRX1200S
リアサスペンションは大きく分けて2種類。
クラシックバイクや、デザイン面からネイキッド、アメリカン、スクーターなどに広く採用されているツインショック。
走行性能を追求したスーパースポーツモデルや、アドベンチャー、オフロード車に採用されているモノショックがあります。
ホンダ CBR650R
設計上、位置的に取り回しがむずかしいモノショック
1本タイプ、2本タイプともに、サスペンションにはさまざまな構造があり、日々、進歩しています。
そしてメーカー純正品、リプレイス品(いわゆる社外品)を問わず、リアサスペンションのダンパーの中には「ダンパーオイル」が入っています。
ダンパーとは「減衰装置」のことです。
ご自宅のドアや、自動車のトランクなど、身近なところにダンパーが使われています。ダンパーのおかげで、急激に閉まらず、ゆっくりドアが閉まるわけです。
リアサスペンションのダンパーも理屈はおなじです。
YSS MG456(2018)
リアサスペンションの断面図 左側のイラストのとおり、ダンパー内にはオイルが入っています。
内部の構造や、オイル粘度の抵抗をうまく利用して、ゆっくり動作する仕組みになっています。
(たとえば玄関ドアにもダンパーが使われていて、急にドアが閉まらないようになっています)
オイルが外に漏れないようにしているのが「シール」(密閉するの意)という部品です。
新品リアサスのダンパーロッド(シャフト)
ご覧のように外からオイルシールは見えませんが、ダンパーロッドとシールは接しています。そのため、新品のサスペンションであっても、動作すればダンパーロッドにオイルが付着します。
使用後の新品リアサス
オイル漏れしたリアサス
使用後の新品サスのロッドに、うっすら跡があります。フロントフォーク同様、中にオイルが入っているわけですから、こうしたオイル滲みが付くのは正常です。
機能上、なんら問題はありません。
オイル漏れが発生すると、あきらかにオイルがたれてくるため、目視でわかるかと思います。
オイル漏れしたリアサス
オイル漏れの原因
オイルシールの経年劣化などにより密閉できなくなった結果、オイルが漏れてきます。
理屈としてはフロントフォークのオイル漏れとおなじです。
フロントフォークの場合、飛び石などでインナーチューブに傷が入ったり、錆がオイルシールを傷つけると、オイル漏れが発生します。
リアサスペンションは、シールの劣化や、ダンパーロッド(ダンパーシャフトとも言います)の錆が原因で、オイル漏れが発生することがあります。
オイル漏れを放置するとどうなるか?
・コーナリング中、車体がフワフワして挙動が不安定になる
・路面との接地感が弱く、コーナーリングで膨らんでしまう
・路面の凹凸や減速帯でバイクが跳ねてしまい、安心して走れない
・高速コーナーや高速道路の継ぎ目で車体がヨレる感じがする
・乗車時にシート高が下がりすぎる
・プリロード調整してもほとんど効果が感じられない
・・・などの現象が出てきます。
一般的に「リアサスが抜けた」「へたった」と言われる状態です。
走行不可能ではないものの、本来のコーナーリング性能、運動性能ではないため、状況によっては危険な場合があります。
その意味で、リアサスペンションの寿命、と言えるかと思います。
とくに中古車を購入した場合、サスペンションが劣化していても気づきにくいため、抜けていても「こんなものかな」と思って乗っている方が多いです。
バイクの運転技術や、初心者・ベテランなどのバイク歴と、「変化に気づくかどうか」の感覚はまったく別物です。
ベテランライダーでも、リアサスが抜けていても、まったく気づかない人もいます。
「うまく乗りこなせないのは自分の運転技術が原因」と思っていたら、バイク側に問題があった(セッティングが合っていなかった)ということも多々、あります。
よくある誤解:
「バイクメーカー出荷時の状態が、最適なセッティングだ」
→実際には、ライダーによってなにが「最適」は異なります。メーカーが不特定多数に向けたセッティングが、あなたに合うとは限らないのです。
メンテナンスが必要な場合
徐々にオイルが劣化し、水のようにシャバシャバになって、粘度が柔らかくなる
長期間、交換していなかったフロントフォークオイル。リアサスのダンパーオイルも、このような状態になります。
オイル漏れに関係なく、リアサスペンションは劣化します。
新品を100%だとすると、走行や経年劣化で少しずつ、ダンパーオイルや、内部パーツが劣化していきます。
ダンパーオイルが劣化すると、新しい時はねばり気のあったオイルが、水みたいに柔らかくなってきます。粘度が低下してくるわけです。粘度が低下すると、走行性能に影響が出ます。
「ストリート走行の場合、公道を走るなら10,000kmから20,000km」
「または2年に1度のオーバーホール or 交換が望ましい」
以上が、メーカーを問わず、フロントフォーク・リアサスペンションの一般的なメンテナンスサイクルです。
ただし、車種、使用環境、使用しているリアサスペンションによってかなり幅があるため、あくまで目安です。
実際には「サスペンションが本来の機能を果たしているかどうか?」で判断します。
まとめ
・リアサスのオイル漏れは、ダンパー劣化(リアサスオーバーホール or 交換)のシグナル
・オイル漏れがなくても、ダンパーオイルが劣化したり、内部部品の消耗によって、リアサスが抜ける(寿命)
劣化したサスペンションをリフレッシュすることで、次のような効果があります。
✓ 舗装の継ぎ目や減速帯など、凹凸路面を通過した際のフワフワ感が減る
✓ リアタイヤの接地感が感じられ、コーナーリング中、今までより安心してスロットルを開けることができる
✓ 高速コーナーでも踏ん張りが効くため安心して走る事ができる
✓ コーナーリングで狙ったラインが走れるようになり、曲がりやすくなる
✓ スムーズな走行が可能になり、長距離を走行しても疲れにくくなる
【比較】リアサス交換前と交換後の動作
オイル漏れの修理
分解したレーシングサスペンション
オイル漏れ修理や、メンテナンスする場合、オーバーホール(分解整備)となります。
ただし、純正・社外品を問わず、分解できるリアサスペンションと分解できないものがあります。
分解できないリアサスペンションは、原則としてオーバーホール不可です。
またオーバーホール可能な製品でも、サス本体の消耗が激しい場合、新品時の性能を取り戻すためには、かなり高額な費用が発生します。
バラバラに分解して、洗浄したり、消耗した部品を交換するからです。
(古い製品だと、メーカーに部品がない場合もあります)
以上の理由から、安い金額でオーバーホールすると、本来の性能が戻らないばかりか、すぐオイル漏れが発生する事があります
旧車など、設計の古いサスペンションをお金をかけてオーバーホールするのであれば、現代の社外品に交換するほうがリーズナブルなので現実的です。
(費用的に、リプレイス品(社外品)と変わらない金額か、リプレイス品を購入したほうが安い場合があります)
性能面においても、30年、40年前のサスペンションと、最新技術で設計された現代のサスペンションとでは、比較にならない差があります。
30年以上前のバイクと、現行バイクの性能差を考えれば、想像がつくと思います。
こうした点を踏まえて、リプレイス品への交換がコストパフォーマンスが高いと思います。
当店ではリアサスペンションのオーバーホールはおこなっておりません。
YSS製リアサスペンションをご利用のお客さまで、オーバーホールを検討されている方はYSS Japan(株式会社PMC)にご相談ください。
(YSS E302シリーズなど一部モデルはオーバーホール不可)
YSS Japan
メリットとデメリット
オーバーホール可能なリアサス
■メリット
・オーバーホール(分解整備)可能
・定期的にオーバーホールし続ければ、継続的に使用できる
■デメリット
・分解不可な製品と比較して、購入価格が高い(製作コストが高い)
・オーバーホール費用がかかる
・オーバーホールしている間、バイクに乗れない
・オーバーホールしたからといって、かならずしも100%新品時の性能になるとは限らない(痛みが激しい場合、性能を取り戻すためには高額な費用が発生する)
・設計が古いサスペンションの場合、オーバーホールしても、社外品現行モデルと比較して性能は劣る
分解できないリアサス
■メリット
・分解可能な製品と比較して、購入しやすい価格(製作コストが安い)
・サスが消耗した場合、本体ごと交換になるため、待ち時間なしでバイクに乗れる
・新品交換すれば100%の性能になる
■デメリット
・オーバーホール不可
・サスが消耗した場合、本体ごと買い換えが必要
リアサスペンションの手入れ方法
リアサスの手入れ
日常でのメンテナンスとしては、ダンパーロッドに泥など、汚れが付いた場合は水で洗い流すことです。
(フロントフォークの場合、インナーチューブの汚れを乾いたウエスなどで拭き取る)
リアサスペンションの場合、形状的に拭き取りにくいものもあるため、できれば洗浄後、エアーダスタースプレーなどで水を飛ばしておくと良いでしょう。
できるだけゴミや、ホコリが付着しない状態にすることで、長持ちしやすくなります。
また前出のとおり、オーバーホール可能なサスペンションについては、メンテナンスサイクルを守ることで結果として、オーバーホール費用が抑えられます。
避けたほうがいいこと
パーツクリーナー(ブレーキクリーナー)を使ってダンパーロッドを洗浄すると、かえって部品を痛めてしまうおそれがあります。
またダンパーロッドに潤滑剤などを吹き付けると、ホコリや、ゴミが付着しやすくなるため、使用は避けたほうが無難です。
当店代表 兼 お問い合わせ担当
日向正篤(ひゅうがまさあつ)
湘南工科大学卒。ロードレース国際A級ライダー。MCFAJエキスパート500クラス シリーズチャンピオン(1987年-1989年)。
バイクショップを経営するかたわら、鈴鹿8時間耐久ロードレースに15年連続参戦(1983-1998年)。インドや韓国、公道レースマカオGP、もて耐やSUGO6時間耐久レースなど、国内外のレースに出場。
ヨシムラジャパン創業者「ポップ吉村」こと吉村秀雄氏から直接エンジンチューニングを学び、これまでに手がけたエンジンはバイクだけで1,080基(2020年12月時点)を超える。
バイク雑誌BGの市販車テストを務め、試乗したバイク(1980年代〜1990年代)は数百台以上。
かつてはオーリンズのプロショップを手がけており、2019年からYSSと共同開発したリアサスペンションを販売。