バイクのエンジンオーバーホール専門店 内燃機加工、カスタム、バイク車検代行なら神奈川県藤沢市のガレージ湘南
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バイクのプリロード調整と基本ルール
リアサスペンションのプリロード調整の解説です。
公道走行を前提に、初心者の方にも理解できるよう、基本から順番にお伝えしています。
1,プリロード調整とは
2,プリロード調整5つの効果
3,プリロード調整方法と工具
4,正しいプリロード調整方法
5,プリロード調整が必要な時
6,プリロード調整の注意点
7,お手入れ方法
プリロード調整とは
プリロード調整の「Preload」を直訳すると「前荷重」、つまり「前もってスプリングに荷重をかける」という意味です。
もっとわかりやすく言えば、「プリロード調整=スプリングのテンションを調整する」ということです。
※イニシャル調整とも呼ばれますが、プリロード調整と意味は同じです。
プリロード調整5つの効果
1.乗り心地の改善
プリロードを適切に設定することで、路面の凹凸や、衝撃を効果的に吸収できるようになります。
これにより、ライダーはより快適な乗り心地を体感でき、長距離ツーリングでも疲れにくくなります。
2.走行安定性の向上
適切なプリロード調整は、前後のサスペンションのバランスを保ち、走行中の安定性を向上させます。
不適切な調整は、バイクが前後に揺れやすくなり、ハンドリングが不安定になる可能性があります。
3.タイヤ接地感の向上
サスペンションのプリロードを適切に設定することで、タイヤが路面にしっかりと接地し、グリップ力(路面追従性)が向上します。
結果、ブレーキングや、コーナリング時の安定性が向上します。
4.個々のライディングスタイルへの適応
ライダーの体重、乗車姿勢、使用目的(ツーリング、スポーツ走行、オフロードなど)に応じて、プリロードを調整することで、それぞれのスタイルに合った最適なセッティングが可能になります。
5.ライディングポジションの最適化
プリロード調整で、バイクのライディングポジションが変わります。適切なプリロード調整により、ライダーの体重や、荷物の重さに応じてバイクの姿勢を最適化できます。
プリロード調整方法と工具
サスペンションによって、2種類のプリロード調整タイプがあります。
純正サスペンションや、比較的、低価格なサスペンションに採用されているタイプのアジャスター。
YSSサスペンション Dio用
フックレンチ(YSS付属品)
調整方法と仕組みを解説します。
ギザギザになっている山の部分を回すことで、スプリングのテンションを調整する仕組みになっています。
たとえばプリロードを締め込む(強くする)と、白い矢印の方向へスプリングに力が加わって、スプリングが縮みます。
プリロードを強くするほど、スプリングの反発力が強くなるため、締め込むのが難しくなります。
写真のDio用の場合、フックレンチを使用して回せるのは最弱から+1段階目までで、2段目以降は、固くて回せませんでした。
6段階調整(メーカー初期設定は最弱)
YSS MB302シリーズも、カバーで中が見えませんが、上記と同じタイプです。
前出の純正サスペンションと同様、棒状の工具を使って、プリロード調整するようになっています。
当店で販売しているTZR50/TZR50R用 MB302で試しましたが、スプリングのテンションが高いため、付属の工具を使っても、とても回せませんでした。
スプリングコンプレッサー
これまでご紹介した山タイプのサスペンションについては、スプリングコンプレッサーを使います。
リアサスペンションのスプリングを外す工具です。
バイクメーカーのサービスマニュアルを確認したところ、純正サスペンションについても、スプリングコンプレッサーを使用して、プリロード調整をおこなうよう記載がありました。
ここまでの話をまとめると、
・上記で紹介したタイプのサスペンションは、車体に装着したまま、プリロード調整をおこなう前提で作られていない
・スプリングコンプレッサーを使った調整が現実的
ということになります。
ガレージ湘南で販売しているYSSサスペンションについては、あらかじめライダーの体重などをヒアリングし、適切なプリロードに調整後、出荷しています。
TZR50/TZR50R用 MB302購入者の方へ
もし、プリロード調整が必要な場合、無理にご自分で調整せず、当店まで相談ください。
(ただし購入者ご本人様に限ります。譲受人・中古品購入者は対応不可)
ネジタイプ プリロード調整
プリロード調整する部分が、ネジ式になっているタイプのリアサスペンションです。
ガレージ湘南で開発・販売しているモデルだと、NSR250R(MC18)/VT250 SPADA/CBR250RR(MC22)/CB125T(JC06)が該当します。
写真の位置にあるボルト部分は、封入されているガスが抜けてしまうため、触らないようにしてください。ガスが抜けると使用不可になります。
YSS付属の工具は前出のMB302と同じですが、当店では調整しやすいよう、独自の工具を製作しています。
黄色のやじるしの箇所に工具を差し込んで、プリロード調整をおこないます。
時計回りに回す:スプリングにかかるテンションが強くなる(プリロードをかける)
効果:シート高が高くなる。あらかじめスプリングを縮めているため、ストローク時の挙動が少なく、人によっては「硬く」感じる人もいる。(逆に、ほとんど変わらない、という人もいます)
反時計回りに回す:スプリングにかかるテンションが弱くなる(プリロードを抜く)
効果:シート高が低くなる。ストローク時の挙動が大きくなり、人によっては「柔らかく」感じる人もいる。(逆に、ほとんど変わらないという人もいます)
ポイント:スプリングの硬さそのものは変化しません。あくまで感じ方が変わるだけです。
ネジタイプのプリロード調整も、締め込む(プリロードを強くする)ほど、回りにくくなるのは、先ほどの山タイプと同じです。
また、モノショック(1本サス)は取り回しに余裕がなく、リアサスを装着した状態でのプリロード調整が、むずかしかったりします。(前出の棒状の工具だと長すぎる)
これらの点を考慮し、改良を重ねて、強度・省スペースに配慮した工具の製作に至りました。
単品販売もしています。
正しいプリロード調整方法
もっとも重要なポイントをあげると、ダンパーのストローク位置です。
ストローク位置を調整して、タイヤの路面追従性を最適化するのがプリロード調整の目的です。
路面の凹凸などでダンパーが縮んだ時(フルストロークした時)、バンプラバーにダンパーが衝突しないように調整します。
目安としては、ダンパーがフルストロークした状態で2割ほどマージンがある状態です。
※メーカー初期設定でおおむねそのように調整されています
本来、「シート高を調整するための機能ではない」ことに注意が必要です。
シート高を下げることに意識が向くあまり、プリロードを最弱にすると、路面の大きな凹凸を通過した際、ダンパーが底付きすることがあります。
タイラップ(結束バンド)をストロークセンサー代わりに使用すれば、最も沈んだ時のストローク位置がわかりやすくなります。
デメリットとして、ダンパーロッドに傷が入ることがあるので使用には注意が必要です。(写真はテスト走行時のもの)
ポイント:
1,新品サスペンションに交換後、慣らし走行100kmを目安とする。
2,ふだんバイクに乗る装具で、ふだん走行している場所をいつもどおり走行する。
3,ストローク位置を確認する。(乗っていて必要性を感じたら調整する)
プリロード調整が必要な時
YSSサスペンションを例とした操作方法です。
・ダンパーがフルストロークした際、マージンが少なすぎる/底付きする
例:ライダーが想定標準体重よりも重い、タンデム走行時など
アプローチ:プリロードを強くする(締める)、3周を目安に回す
効果:ダンパーのストローク位置が上に移動する/シート高が高くなる
想定標準体重:メーカーが設計上、想定したライダーの体重です。もし、ライダーが標準体重を大きく上回る場合、スプリングを標準より固いものに交換しないと、本来の性能が発揮できなくなります。
純正・社外品を問わず、どのサスペンションでも理屈は同じです。
参考までにYSSの想定標準体重は、おおむね60kgから80kgです。タイ人と日本人は体格がほぼ同じため、共通仕様です。(ヨーロッパ仕様は日本仕様と異なる場合があります)
・ダンパーがフルストロークした際、マージンが多すぎる
例:スプリングレートが高い(使用しているバネが硬い)
アプローチ:プリロードを弱くする(緩める)、3周を目安に回す
効果:ダンパーのストローク位置が下に移動する/シート高が下がる
一般的によくあるのは、ヨーロッパ仕様のサスペンションを装着した場合や、大型スーパースポーツ車で、日本の公道向けにサスセッティングされていない場合が該当します。
(前後サスペンションがストロークしないため、非常に乗りづらい状態)
前述のとおり、足つき性を向上させるためにプリロードを弱くする場合が見られますが、もともとシート高を調整するためのものではありませんので、適切なバネレートのスプリングに交換した方がいい場合もあります。
以上は基本的な考え方です。
実際の運用については、ライダーによって異なります。
豆知識
公道ではとくに知らなくてもいいですが、知っておくと役に立つかもしれない情報です。
・路面状態が悪い(サーキットでの雨天走行や、オフロード走行など路面のグリップが低い)場合、プリロードを弱くする。
・プリロードを強くすると、タイヤを路面に押しつける力が強くなる。デメリットとして、タイヤの摩耗が早くなる。
・プリロードの強弱で、サスペンションの硬さは変化しない。プリロードを強くした場合、サスペンションの動きが小さく感じるため、硬く感じる。逆にプリロードを弱くした場合、動きが大きくなるので柔らかく感じる。
スプリング自体の硬さはレートで決まるため、変えたい場合は異なるレートのスプリングに交換する。
・冬場と夏場を比較した場合、サスペンションの油温が異なるため、ダンパーの効きが変わる。
・サスペンションはスプリングがメイン。ダンパーは補佐役。スプリングレートが合っていない場合、ダンパーでカバーできない。(ダンパーを強く利かせすぎると転倒につながる)
・リバウンド調整は「伸び側」の速さを調整する機能だが、「縮み側」にも作用する。
プリロード調整の注意点
プリロード調整するにあたっては、事前に標準セット長を計測しておきましょう。
※各製品のスペックに記載しています
VT250 スパーダ用 ME302の例
スプリング自由長:150mm
標準セット長:138mm
基準プリロード量:12mm
自由長:スプリング正味(スプリングを取り外した状態)の長さ。
標準セット長:組み込んだ状態のスプリングの長さ。
基準プリロード:組み込んだ状態で、スプリングをどれだけ縮めているか?という数値。
プリロード調整すると標準セット長が変わるので、あらかじめ計測しておくことで、締めたり、緩めた時にどのくらい変わったかわかります。(わからなくなっても元の状態に戻せます)
プリロード調整にあたっては、前出のとおり、3回転(3周)ぐらいを目安に操作してください。回す量が少なすぎると、変化を体感できないからです。
なお、ネジタイプの調整方式のサスペンションは、溝に泥など、異物があると回りにくくなります。
汚れが激しい場合は水道水で洗うなどしてから、操作してください。
ダンパーロッドへの潤滑剤の使用は、ホコリやゴミの付着につながるため不要です。(拭き取る場合は使用可)