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エンジンオイルの常識は非常識

​エンジンオイルは、エンジン寿命を大きく左右する重要なパーツの一つです。

にもかかわらず、エンジンオイルについては、あまり詳しく知られていません。そのため古い情報や、誤った情報を鵜呑みにしている方がよくいらっしゃいます。

オイルは、ただでさえ複雑な上に、表示の仕方が統一されておらず、メーカーによってバラバラです。

オイル性能を評価する規格はありますが、いくつも規格があり、それぞれ評価基準が異なるため、一般のライダーにとって、非常にわかりづらいのが原因だと思います。

 

その中で、とくに多いのが「空冷エンジンには鉱物油がいい」という神話です。

どういう理由でそう思うのですか?と尋ねると、

 

「バイクメディアに書いてあったから」

「インターネットにそう書いてた」

 

という返事が返ってきます。

たしかにインターネットは情報収集に便利です。

ただ、その情報が信用できるかどうかは、読む側が自分で判断しなければなりません。雑誌やバイクメディアも同じで、書いてある内容が全て正しいとは限らないのです。

当店には、1970〜1980年代の空冷バイクに乗るお客さまが多くいらっしゃるため、当店のエンジンオイルに対する見解をお伝えします。

私(日向)は、創業期のワコーズオイル(株式会社和光ケミカル)開発にライダーとして携わりました。

​油冷GSX-R750(写真中段右)

ワコーズ 旧車 オイル

鈴鹿8時間耐久ロードレースに15年連続で参戦し、その中で10社ほど、国内外メーカーの有名オイルを使用しました。

また、レース活動と並行してガレージ湘南を経営し、1985年から現在まで、一般公道を走るライダーの方々と関わってきました。

通勤・通学、ツーリング、峠、サーキット走行、飛ばす方、飛ばさない方、バイクの車種や用途、ライダーの性格や運転の仕方・・実にいろんな方々がいらっしゃいます。

また当店はエンジンオーバーホール専門店として、1,080基以上の実績があります。

50ccから、絶版車、リッタースーパースポーツまで、あらゆるエンジンを手がけています。

これらの、さまざまな経験を踏まえた上での話になります。

古い空冷エンジンだからこそ、合成油

と私は考えています。

まずはよくある意見について、検証していきましょう。

1:昔の空冷エンジンは部品の精度が低くてピストンとシリンダーのクリアランスが広い

「昔」がどの年代のバイクを指すのかはわかりませんが、現行モデルと比較した場合、昔のほうが、部品の精度が低いのは確かだと思います。

ただ、それは同じ年代に生産された水冷エンジンも同じです。

「空冷エンジンだから部品の精度が低い」というのは、根拠にとぼしく、誤った認識だと思います。

次にクリアランス(ピストンとシリンダーの隙間)について。

わたしは述べ1,080基以上のエンジンをオーバーホールしていますが、空冷エンジンが特段、クリアランスが広いと感じた事はないです。

走行距離を重ねるなどして、ピストンリングやシリンダーが摩耗したエンジンなら、クリアランスが広くなっても不思議はありません。

ですが、それは空冷エンジンに限らず、水冷エンジンにも同じ事が言えます。

・・・

(新車時の)水冷エンジンと空冷エンジンを比較した場合、熱量が多い空冷の方が、クリアランスが広くとられているのは事実です。

 

ただ、それはあくまで両者を比較した場合の話です。

 

実際は、適切なクリアランスはエンジンごとに異なります。

 

ですから単純に「空冷エンジンはクリアランスが広い」と考えるのは大きな誤解です。

2:空冷エンジンに化学合成油を使用すると、オイルシールが傷むから鉱物油がいい

 

100%化学合成油(フルシンセティック)が出始めた頃は、PAO(ポリαオレフィン)やエステルなどが、オイルシールを痛めるといわれていました。

しかし、それは何十年も前の話です。

現在は中和剤などが使用されていて、改良されています。

ほかにも、空冷エンジンに対して、化学合成油を使用する否定的な意見は多々ありますが、詰まるところ、

「オイルが滲む。オイルが漏れるから鉱物油を使う」

といった考え方に集約されます。

そもそも、エンジンオイルの役目は何でしょう?

エンジンを保護したり、長持ちさせる事より、オイルが滲まない事のほうが重要なのでしょうか?

「オイルが滲むから、性能に劣る鉱物油を使う」

「滲まないオイルがいい」

気持ち的には理解できますが、冷静に考えると、本来の目的を見失っていることが分かるかと思います。

エンジンを保護することが本来、オイルの役目だからです。

(反対意見を持つ人もいるでしょうが、このホームページをご覧になっている方の多くは、「愛車にできるだけ長く乗り続けたい」という方だと思いますので、あえて言わせていただきました)

エンジンオイル6つの基本性能

1、潤滑性能(金属同士が焼き付かないよう潤滑して、エンジン内部の動きを滑らかにする)
 

2、密閉性能(油膜でピストンとピストンリングの隙間を埋めるなど、エンジン内の気密性を保つ)
 

3、清浄分散性能(エンジン内部にカーボンやスラッジなどの汚れが固着するのを防止する)
 

4、応力分散性能(一部分にかかる強い力を広い範囲に分散させる)
 

5、冷却性能(エンジン内部を冷却してオーバーヒートさせない)
 

6、防錆性能(金属表面に付着してエンジン内のサビの発生を防ぐ)

基本性能ができるだけ長持ちするオイルが、良いオイルと言えます。

その点において、化学合成油ではなく、あえて鉱物油を使うメリットは少ないと思います。

もちろん、鉱物油にもメリットはあります。

・たまにしかバイクに乗らない(走行距離が少ない)

・エンジン保護や運転時のフィーリングより、コストを優先したい

こうした方ですと、鉱物油がいいかもしれません。

しかし「愛車にできるだけ長く乗り続けたい」「好調な状態を維持したい」という目的からすると、化学合成油・鉱物油それぞれのメリット・デメリットを考慮しても、化学合成油の使用をお勧めします。

ガレージ湘南では、ベリティ(三和化成工業株式会社)の「VERITY BIKE FS HR VER3(10W-40)」を使用しています。

ベリティオイル バイクショップ 神奈川
BIKE FS HR Ver3 10W-40 バイクショップ

三和化成工業株式会社は、国内のバイクや、大手自動車メーカーの純正オイルをOEM生産している老舗の潤滑油メーカー。

ほとんどのオイルブランド(オイルメーカー)は、自社に工場を持たない「ブレンダー」ですが、同社は日本に自社工場(横浜・静岡)を持ち、開発・生産までを一貫しておこなっています。

長年のOEM生産で蓄積されたデータ・ノウハウを基につくられたのが自社ブランド「ベリティ」です。

当店では耐熱性に優れ、粘度が低下しにくく、オイル寿命が長い「VERITY BIKE FS HR VER3」(100%化学合成油)を、空冷Z系・GPz系エンジン、ZEPHYR、CBシリーズ、XJシリーズ、刀などの空冷エンジンに使用しています。

空冷ハーレーにも使用していますが、オイル漏れやトラブルはありません。

もちろんCBR1000RRや、GSX-R1000などのスーパースポーツのほか、隼やZZ-R1100などのメガスポーツ、ZRXや水冷CBシリーズなど、ネイキッド車にも使用しています。

ちなみにVERITY BIKE FS HR VER3は、鈴鹿8耐で入賞実績のあるエンジンオイルです。

6万kmほどテストしたお客さん

20年ほど前の空冷バイクに乗っているお客さまで、ご自身で6万kmほど、化学合成油をテストした方がいます。

(VERITY BIKE FS HR VER3含め、各メーカーの化学合成油を試されていました)

オイル漏れはもちろん、オイル滲みも全く起きず、よく言われるオイルの減り(燃焼)も、目視で確認できる範囲では、まったく見られなかったそうです。

「インターネットのうわさ話なんて、あてになりませんね・・・。

よく考えたら、たった1回オイルを換えただけなのに、素人が「オイルが漏れたり滲むのは、化学合成油が原因」と、断定できる根拠が謎です。

私も素人だけど、オイルだけじゃなく、ほかの箇所に不具合が発生している可能性を疑いますよ。

そもそも、もし本当にオイル漏れや、オイル滲みの原因が化学合成油のせいなら、すべての空冷エンジンでオイルの漏れや、滲みが発生しないと理屈に合わないですよね。」

と仰ってました。

​オイル滲みの根本的な原因

鉱物油と比較した場合、化学合成油はオイル分子が細かく、浸透性が高いため、オイル滲みが発生しがちです。

 

裏を返せば、オイルが滲むということは、きちんとオイルが浸透している証拠といえます。ところが、空冷エンジンに化学合成油を使用しても、100%の確率でオイルが滲むわけではありませんね。

なぜ、オイル滲みが発生するのか?

 

根本的な原因は、主にガスケットの劣化や、熱によるエンジンの歪み(ひずみ)です。

 

つまりエンジンにすき間が発生して、そのすき間から(浸透性の高いオイルだと)滲みが発生するわけです。

空冷エンジン オイル漏れ

エンジンはいくつもの部品で構成されていて、複数の接合面があります。通常は密閉されていますが、ガスケットの経年劣化などで、少しずつ、すき間ができてきます。

もし、化学合成油を使用して、絶え間なくオイルがしたたり落ちるようなら、ガスケットが劣化していたり、例えばクランクシールが劣化しているなど、致命的なダメージを抱えている可能性が高いです。

 

鉱物油でごまかしたところで、トラブルが発生するのは時間の問題です。

ちなみに

「空冷エンジン向け」をうたった鉱物油も販売されていますが、それは鉱物油が性能的に優れているからという理由ではなく、単純に売れるからです。

「空冷エンジンには鉱物油がいい」

 

「高粘度オイルがいい」

 

そう信じている人が多いため、高粘度の鉱物油が売れるそうです。メーカーの本音としては「そうじゃないんですよね」と思いつつ、おおっぴらに言えないようです。

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参考情報

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