開発ライダー 乾ヤスタカ/掲載日:2019年7月15日
全国CB125Tユーザーの有志によってスタートした製作プロジェクト。
2003年のCB125T生産終了から16年の時を経て、
新たに誕生したCB125T(JC06)のリアサスペンション
開発の経緯やこだわり、作り手に込められたメッセージを紹介する。
目指したのは
「初心者のライダーがいつも通り走って楽しいと感じるサスペンション」
*「製品コンセプトについて聞かせてください。」
免許を取って初めて買ったバイクがCB125Tで、そういう高校生や大学生の初心者ライダーがいつも通り走って、楽しいと感じられるようなサスペンションを目指しました。
当初はもう少しマニアック路線というか、それこそ僕自身が峠道を走ったりするのが好きなので、もうちょっと走りに特化した方向性で作る予定でした。
*「もともと、ご自分が使うために作る予定だったのですか?」
きっかけはそうです。一度、新品の純正リアサスを手に入れて交換したんですけど、僕が年間1万km以上走るんで、2年も持たなかったんですね。どうしても、コーナーでリアが落ち着かないというか、膨らんでいくフィーリングになってしまって。
そうこうしていると、純正のリアサスが廃番になって、CB125Tは社外パーツが皆無で有名ですから、代わりになるようなリアサスが無くなってしまったんです。
日向社長に作ってくれそうなサスペンションメーカーを探して頂いて、手を挙げてくださったのがYSS(の代理店)さんでした。
*「それですぐ製作が決まったんですか?」
ええ。ただ、いきなり「製品として販売しましょう」という感じではなかったですね。これからサンプルを作るという段階でしたし、価格も仕様も決まっていなかったので。
数名のユーザーからプロジェクトが始まった
*「どういうタイミングで販売が決まったのでしょう?」
最初はSNSで、同じバイクに乗ってる人たちに声をかけたんですね。「リアサスを作ろうと思ってるんだけど欲しい人いる?」って聞いたら、予想以上に興味を示してくれる方が多かったんです。
*「それでゴーサインが?」
というより「今の段階で、これだけの人たちが興味を持ってくれていますがどうですか?商品化しますか?」という事を僕の方から聞きました。
僕はふだんから仕事で会社や人をプロデュースしているのですが「売れるかどうか、需要があるかどうかわからないまま、とりあえず商品だけ先に作っちゃいました」みたいなパターンが一番、失敗するんです。
そういう事例を嫌というほど、目の当たりにしてきました。だから需要がありそうか先に調べて、判断材料をメーカーさんたちに渡したわけです。
僕にとってバイクは趣味ですけど、製品を作るとなればもうビジネスですから、協力してくださったメーカーさんや日向社長に迷惑かけられないですからね。
*「製品化が決まった時の心境は?」
「思ってた以上におおごとになってきたな」と思いました。
でも、やると決まった以上はできる限り最高のものを作りたいですし、喜んでもらえるような製品にしようと思いました。もし、あの時、最初に手を挙げてくれた人がいなかったら、こうしてリアサスが日の目を浴びることは無かったかもしれません。
6,726kmに及ぶ
マッドサイエンティスト並のテスト走行
*「開発はどういう感じで進んでいったのでしょうか?」
まず、どういったユーザー向けの製品にするかを決めました。
同じCB125Tユーザーでも、人によって使い方や走り方は違いますからね。私みたいに軽二輪登録して、高速道路を走ったり、峠道を走る人はほぼ、いないと思います。
個人的なリアサスをつくるなら自分に合わせてつくればいいですが、製品化となると、そうはいきません。
市街地走行や、ツーリングなど、ふだん使いできるリアサス、位置づけとしては純正品に近いリアサスを目指しました。
試作品のリアサスペンション第1号。取り付け時に干渉した部分を削っている。
※製品版は改良が加えられているので無加工で取り付け可能
*「具体的にどんなテストをおこなったのでしょうか?」
まずは取り付けですね。車種専用品なのに加工が必要だと、おかしいじゃないですか。ボルトオンで取り付けられることが前提です。
その次に実走行テストをおこないます。
さっきも言ったように、ライダーの体重、ライディング技術、住んでる地域や道路環境、使用用途、バイクのコンディションがそれぞれ異なるわけです。
だからできるかぎり、たくさんのシチュエーションを想定しながら距離を走りました。10kgの荷物を積んだ状態で走ったり、乗り方を変えたりして、自分の癖や好みだけで走らないように。
それこそ、無数にあるパターンを一つ一つ試していく。1回のテスト走行で2時間が最低ライン。
とくに冬はダンパーオイルが冷えていますから、ちょこっと走ってもテストにならない。製品の耐久テストも兼ねていますからね。長い時は真冬の大雨の日も、凍えながら1日8時間以上走っていました。
逆に真夏は連続走行するとダンパーオイルの油温が上昇するから、わざと長時間走行していました。
「仕事としてバイクで走るのって結構、大変なんだな」と思いましたよ。ふだんの走行なら避けるような路面のギャップも、あえてテストのために避けないで走るわけですからね。
走行する道路が、必ずしもきれいな路面ばかりとは限らない。不意に荒れた路面やギャップを通過することだってある。悪天候での走行はもちろんのこと、未舗装路、10kgの荷物を搭載しての走行、高速道路を使ったハイスピードレンジでの走行テストも行っている。(写真は実際に走行テストを行った場所の一つ)
入門用として初心者でも愉しめる
リアサスペンション
*「入念なテストをおこなったわけですね。テスト結果は製品化にどう反映されていますか?」
比較的、若いライダーに「自分はまだ初心者だから、サスを変えてもよくわからないかもしれない」そういう声が結構あったんですね。
日向社長と話し合った結果、「だったら逆に『サスペンションを交換したら、こんなにバイクって変わるんだな』という事を若いライダーに知ってもらいたいね」という事になりました。
そう考えると、いろんな調整機能を付けた高性能サスにするより、できるだけシンプルにして、求めやすい価格で提供したほうが、敷居が広くなるというか、ハードルが下がります。
高性能で高いと高校生や大学生は買えなくなるし、かといって、安かろう悪かろうでもダメ。
なおかつ、いつも通りに走って楽しめる懐の広さを確保しつつ、スポーティーな走行も楽しめる。もちろん、僕みたいなリターンライダーや昔、バリバリの走り屋だった方が乗っても楽しめるようにね。そういった意味で、全体のバランスを取るのに苦労しました。
変な話ですけど、数年後、数十年後にライダーの方が「俺がリアサスにこだわりを持つようになったのは、あの時、YSSのCB125T用サスを付けて走ったのが最初だったな」そう思ってもらえるきっかけになればいいかなと思います。
ライダーって、みんな自分の癖みたいなものがあると思います。癖とか好みが。のんびりコーナーを走るのが好きな人もいれば、ちょっと攻めて走るのが好きな人もいる。でも、僕の好みやクセみたいな物差しだけで判断して、それを製品化してしまうと、いざ他のライダーが乗った時に「あれっ?」という事が起きると思いました。
やっぱり不特定多数の人が使う製品ですから、特定の条件で一部の人だけが楽しめる方向性は、今回は違うなと。できるだけ偏らず、普遍性を持たせるよう意識しました。
誰がどんな状況で走っても楽しいと感じられるかどうか、そこはすごく重要視しました。ある意味、純正のように守備範囲の広いサスペンションになったと思います。
モニターとして協力してくださったタムラさん(青)とテルさん(綠)
今回のプロジェクトの特徴は、直接ユーザーの声を集めて、開発にフィードバックしている事だ。
ライダーが最大限、楽しむための工夫
*「ほかにも工夫されている事があるとか?」
新しい試みとして、サスペンションを販売するだけではなく、自分で取り付けられるように写真付き取り付け説明書だったり、サスペンションを自分で調整するためのわかりやすい基礎知識マニュアルを用意しています。あと、動画も。
誤解を恐れずにいえば、これからの時代、パーツを売るだけじゃなくて、それをどうやって使えば良いのかという事をユーザーに伝えるのも、売り手がやらないといけない事だと思っています。
どんなに高性能なパーツでも、そのポテンシャルを引き出すのは人間ですからね。
できる限り、販売する側がそのサポートをしていかないと、若いライダーはバイクから離れていくんじゃないかと思っています。
若いライダーを育てると言うと、偉そうですけど、「せっかくバイクに興味を持って乗っているライダーが、この先もバイクに乗り続けられるようにしていきたいね」という話を日向社長としていて、そういった環境を提供したりサポートする事もやっていこうと。
今回、まず僕らにできる事として、サスペンションを通じて楽しんでもらう事。公道を走るぶんには、専門的な知識は必要ないので、基本だけ理解すれば自分で調整して遊べますからね。それをサポートしていくという試みです。
*「最後になりますが、ユーザーの方へメッセージをお願いします」
作る側として、できる事はすべてやったつもりです。あとは実際にライダーの方がいつも走ってる道を、いつも通りに走ってもらって、どう感じるか?という事だと思います。
今回を機にサスペンションやバイクの楽しさをもっと知って頂いて、末永くバイクライフを続けてもらえたらいいなと思っています。ありがとうございました。
YSSリアサスを装着して13,000km走行した乾氏のCB125T改(142cc)。CB125T改のプロリンクは、日向社長の手によってフルベアリング化されている。